優しい夫や妻を演じられなかった自分に失望して、今日も喧嘩ばっかする夫婦

「なんで牛乳をそのまま口飲みするの? 私が飲めなくなるじゃん、コップに移してよ」
「洗面台で顔を拭いた後のタオルは元の場所に置かないでよ、綺麗なタオルと一緒になっちゃうじゃん」
「湯船の中で体こすらないでくれる? 垢が浮いてたんだけど」
「大丈夫? 排水溝にたくさん髪の毛が詰まってたけど抜け毛多くない?」
「啓太君、30歳なのに大学の准教授だって」
スルガ銀行、例の事件でやばいから定期別に移した方がいいと思うんだけど、どこがいいと思う?」
「ねえ銀行の件まだ考えてくれないの?」
「だからネット銀行は怖いからやめた方がいいって言ったじゃん」
「午前中に帰ってくるならそう言ってよ、言ってくれれば私用事あったから車出したのに。入れ替え必要なかったのに」

「このままずっとスルガに入れとくの?」

 

これは友人の新婚夫婦の一隅です。

どれもこれも犬畜生な瑣末な一隅だが、妻にこういうことを言われるたびに殺したくなるらしい。性欲が著しく失せて、一生抱く気にならないらしい。

 

さて、独身の俺が偉そうに講釈垂れてみましょう。

男の方は、そうだね、配慮が足りない。妻はお母さんではない。一緒に生活をするということは自分の気持ちのままに行動してはいけないし、決めたルールを守らなきゃいけない。相手の行動を先回りして考えなければならない。仕事と一緒だ。仕事ができない人間は人の気持ちが読めなかったり、先回りできない人間なので、結婚生活は苦労する。

女の方も確かにうるさい。
思ったことを何でもパッと言えばいいというものではない。気になったことを何も言わずに溜め込んで爆発するのもよくないけど、前置きが必要だ。あなたとこれからも仲良くやっていきたいから、お互いにとってこれは大事なことだから言わせてほしいと、一歩後ろに引いた感じで、男尊女卑に自ら飛び込むような覚悟で、殊勝な心がけで発言していかなければならない。子供を叱るような感じでガミガミ言ってしまうと色気は損なわれる。

 

しかし殺したくなるとは、、!

 

旦那は「今は話しかけてくれるな」という時に話しかけられるのが一番殺したくなるらしい。

空気でわかるだろうが。今俺は話しかけられたくないんだ。わざわざ朝の気だるい感じを利用したり、あるいは仕事から帰宅して疲れている感じをあからさまに利用して、今だけは放っておいてくれ……という空気を破って話しかけてくるのが耐えられないらしい。

男同士だとこういう気配はすぐに察知してひとまず距離を置くようになるが、女はこういうところが鈍い。無視をされると逆に話しかけようとする。
普通の題材を話しかけられるだけでも殺したくなるらしいが、前述のようなことをガミガミ言われると、バラバラにしたくなるほど殺したくなるらしい。

 

まあ俺も気持ちがわからないでもない。
ホリデイスポーツクラブで毎日温泉に入っているけど、体を洗ってる時、後ろのバカがシャワーをびしゃびしゃ振りまいて俺にかかるので、本当に殺したくなる。こういった些細なところでこそ人は殺したくなるのだ。

人間の狂気というものは恐ろしいものだ。
他人だろうが、家族だろうがちょっとした些細なことで殺してしまいたくなる。

 

結婚することを怖がっている人の中には、ほんのちょっとした些細なことで、イラッとしてしまう自分が嫌で結婚を渋っているのではないだろうか。
実家に帰ったとき母親にごちゃごちゃ言われるとイラついてしょうがなくなってしまう。本当は母親を愛しているんだけど、タイミングでどうにもならないときがある。ちょうどいい具合に自分の流れで時間が進んでいる時、それを邪魔された時、黒い感情が発露してしまう時がある。

それを結婚した相手にもやってしまうんじゃないかという恐怖がある。相手に何かをされたから嫌というよりも、見たくない自分を見てしまうことが辛いんじゃないだろうか。
誰だって自分はいい人間でいたい。そう思われていたい。優しい旦那さん。優しい奥さんだと思われていたい。近所からもそう言われたい。それを夢見てスタートする。

しかし、ちょっとした出来事でそんな自分の計画が狂ってしまう。たった一回でも些細なことで怒ってしまったら計画は台無しだ。傷が入ってしまった。完璧主義にとってはもう取り返しのつかない失敗となってしまう。新品の iPhoneを床に落としたときと一緒だ。

みんななりたいキャラを演じている。
大体がろくでもないサラリーマンをやっているから、せめて家庭だけは素晴らしい夫、あるいは妻になろうと夢を見るけど、仕事でも家庭でも結局クソみたいになってしまった。勉強もスポーツもダメだった。またダメだった。

しかし、この前怒ってしまったから、今日は優しくして信頼を取り戻すそうと思ってがんばってみるが、それがうまく伝わらずに腹ただしくなってくるッ!

相手はボケーっとしていて、どうして俺はこんなに優しいことしてんのに、それが伝わんねーんだよ! と憤る。今日は優しくしてみよっかなと、始めた矢先にガミガミ言われてすぐにやる気をなくして、また自分との勝負に負けてしまい、脳内でひとり相撲をして自滅してしまう。

妻や夫が、周りに自分の悪口を言っていたら、もう耐えられない。何よりも自分の評判が失墜することを恐れている。

やっぱり、なりたい自分になれない辛さが離婚の原因になっているような気がするな。