会社を辞めることを上司に伝えたときの様子

深い意味はないが、会社を辞めた時の話を日記のように綴った文章がある。

この記事から得られるものは少ない上に、ただ長く、場面を描写したに過ぎない。今、会社を辞めようかどうか迷っている人にとって参考になるとも思えない。

 

 


休憩室で寝てたら、急に先生がきた。


「おい、しまるこ、最近悩んでることはないか?」と聞いてきた。

「最近、書類が溜まってるって聞いたぞ、何か悩んでることがあるのか?」


この先生は他人にあまり関心がないので、自分から俺の悩んでいる様子に気づくことはない。誰かが俺が悩んでいるように見えて、先生を使って聞き出そうとしているに違いなかった。


「特にないです」

「うーん」


答えると、先生は困ってしまった。何か、適当に相手が安心できるだけの即席の悩み事を作ろうとした。すると、


「こういう零細企業で働いてると、いろいろなこと考えるだろ? 自分がこの先どうなるか、とか、どういうポジションになって、50歳のころにはどうなっているか、とか考えるよな?」


と聞いてきた。俺は辞める気でいたから、この会社での将来なんて、どうでもよかったが、それでも何度か考えたことはある。はい、と答えた。


「そうか、そうだな。俺は将来、お前をこの会社の中心に沿えようと思っているんだ。しまるこ!  今はまだ経験が少ないが、経験を重ねていけば、うるさくいうやつもいなくなるだろう。俺はお前に社長の座を譲ってもいいと思っている。俺の息子がこの会社に入ってくる予定があるが、お前を差し置こうと思っていない。社長はお前に任せようと思っているんだ」


一体俺のどこがそんなに気に入ったのかわからなかった。仕事は手を抜いてばかりいた。俺の手抜きによってクレームが生じたのは1回や2回じゃない。怒られると、そのときは直しても、ほとぼりが冷めてくると、また手を抜いた。


「まぁ、そういう将来の件で、いろいろ考えてちゃんとお話ししたいと思ってたことがあります」と俺は答えた。すると先生は「ん?」とこれ以上ないほど興味が溢れる顔に


俺は、ここじゃちょっといいにくいので、またいいますと答えた。休憩室で、仕切りの奥で休憩してるスタッフが何人かいたからだ。最初はがやがや話していたが、俺らの話は完全に筒抜けで、しっかり聞き耳を立てられ、今では完全に静かになっていた。


声が聞こえる範囲のところにスタッフがいるのに、なんでこういう話を持ち掛けることができるんだろう? と、その無神経さにあきれた。そして、俺は今、休憩中だ。普通、仕事終わった後の時間にするだろうと思った。とんでもないほど無神経だ。


だが、もういいや、と思った。別に聞かれて困ることじゃない。俺も無神経だし、今このタイミングを逃したら、次にいつ辞めるって言えるかわかったもんじゃない。自分で辞めるっていうつもりだったから、こんな風に先を越されてしまった、自分のだらけ具合に対する罰だとも思った。

 

「すいません、実は僕、副業してるんです。数ヶ月前からインターネットで仕事をしてて、それのことで頭がいっぱいで、早く帰りたくなって書類を貯めていました」

「あー! そうなんだ! それか! なんか様子がおかしいと思ったんだよなーー! それは一体何の仕事なんだ?」

「主に記事を書く仕事です、新商品のパソコンとかガジェットとかアプリとか記事が主なんですけど、たまにホームページを代行で作ったり、プログラムを組んだり、ネット上で僕ができる範囲のスキルで色んなことやってます」

まぁ半分くらい嘘だけど、半分くらい本当だ。


ブログを書いて収入を得ている、と言うより、専門的なことをごちゃごちゃ付け加えて言っといた方が、難しいような印象を与えて、うやむやにできる。案の定「ほうほう」と言っていた。


「そうかー」

「しまるこをとにかく育てたかった。しまるこを中心にこの店を繁栄させていくつもりでいたんだが」

「もっとはやくいうべきでした。3か月前にいって、3か月でやめようと思ってました」

「いやいや! 一年はやってもらわなければ困る!」

「一年……!? 一年ですか……!?」

「今9月だから来年の9月までですか!?」

「そうだ」


来年の9月までできるわけがない。3月いっぱいで辞める気でいたから、そこから半年だ。気持ちが持つわけがない。


「一年は無理です」

「でも、後輩が育たない、一年は時間くれないと、お前の代わりは育成できない、外部から即席で雇っても、他のとことうちのとこじゃ技術が違うから、とても役に立たない」

「……」


俺がやってることといえば、痛いとこはどこですかー?と聞いて、ここと指をさされたら、そこをさすってるだけである。その辺を歩いてるサラリーマンでもできる。


第一、この先生は、俺がマッサージしてる様子なんてろくに見ていないのだ。俺が2年半やってるから、2年半分上手くなったのだと思っている。

 

 


そんなこんなで休憩時間が終わって、また送迎から帰ってきて、先生に呼び出された。


「なぁしまるこ、ネットで商売なんていうけど、今、ネットで早々食べていけるもんじゃないだろう? ほかに本当の悩みがあるんじゃないか?」と言われた。


これもおそらく他のスタッフが言いそうなことだ。俺がさっき、ネットでこんな商売をして、これこれをこうしたら、これでまぁまぁ売れます。とか言ったら、「ほぉー!」って感心してたくせに、別の場所で、別の人に「今の時代、ネット商売で生活なんてできるはずがない」と言われれば、すぐにそうだそうだ!となってしまうのが先生だった。


自分で会社を立ちあげることができる人は、せっかちでないとダメかもしれない。小心者や考えすぎる人間は、いつまでたっても何もしない。


俺がエアロバイク買った方がいいじゃないでしょうか、新しいパソコン必要じゃないでしょうか、というと、すぐに「ふんふん」「いいぞいいぞ」といって何でも買ってくれる先生だった。でも、あとになって「あれは買うべきじゃなかった」と誰かがいうと「そうだそうだ」と言うから、何度か殺したくなった。


「しまるこ、やっぱり儲からないんじゃないか?」

「確かに今は儲かっていません。今貰ってる給料の半分も達しないです。でも、節約すればなんとかなります。やばくなったら、パートとかで週二日くらい働けばいいと思ってます」

「しまるこ、俺も昔は新人の頃は仕事が難しくて失敗ばかりしていた。しかし経験を積んで考える材料が増えてくると、楽しくなってくるもんだ。まだお前は経験が浅くて、その域に達してないから楽しめないのかもしれないな」

「学校までいって資格とったのに、どうするんだ? 本当にもったいないぞ、この業界は資格をもってるだけで、有利になる。経験豊富な介護士やマッサージ師がよりも、理学療法士の資格をもった新人がやってくれば、それだけで優位なんだ。それがパートで入ってきたとしてもだ」

「今はまだ、周りがうるさく言うこともある。お前が手を抜いた仕事をした件で〇〇に怒られただろう。それを気にしてるんじゃないか? 今はまだうるさく言われる時期が続くかもしれないが、長くやってれば誰も何も言わなくなる」

 

手を抜いて〇〇に怒られたのは事実だ。よく〇〇には他のことでも怒られる。だが、おばさんに怒られたぐらいで、へこたれる俺じゃない。ババアに怒られて嫌になって退職なんて、これほどかっこわるい退職の仕方はない。辞めるなら前向きに辞めたい。男らしく辞めたいと思っている。腹が立つのは、俺を辞めるほどに追い込んでしまったのかしら? とババアが考えているかもしれないことだ。俺をそんなか弱い生き物だと思っていることに腹が立つ。


「俺は先のことなんてどうだっていいんです。別に今死んだっていいと思ってるぐらいですから」

「死ぬ?? な、な、なにを自暴自棄になってるんだ? しまるこ!」

「別にこの先、ネットの仕事がうまく行かなくなって、死んだとしてもいいと思ってるんです。だって、今だって、死んでるのと変わらないですから」

「うん?」


先生はよくわからなそうな顔をした。自分でも思い切ったことを言ったなと思ったが、伝わらなかった。


マッサージの仕事をしている俺は、死んでいるのと変わらない。それだけつまらない仕事だと言ったのだ。


「こうして毎日仕事しているけど、なんだかパッとしなくて、もっと仕事に打ち込めるようになりたいとがんばったけど、注意力散漫で別のこと考えちゃうんです。やってて、いまひとつ本気になれないんです。手を抜いてしまうんです。なんだか、仕事してるときも生活しているときも死んでる感じなんですよ」

「たぶんマッサージで手を抜くと、抜くほうも抜かれる方も不幸だと思うんです。会社にとっても不幸だと思うんです。先生は本当に朝から晩まで手を抜かずに楽しそうに仕事してて、絶対こうはなれないと思いました。自分の一生の仕事にするのは無理だと思いました。俺は今日一日をしっかり生きてみたいと思うんです、だらだら生きるのはやめようと思ったんです」


こんなことを言っておいて、半年以上全くブログを更新していなかったが(笑)


よしわかったと言って話は終わったが、何度か考え直さないか? と言われた。若い男が野望のために覚悟を決めた話をしたのに、もう一度考え直せとは、なんて失礼だろう。一年やれとか、どうして人の時間を平気で奪えるのか? 全く持ってクソ男だ。


だが、辞めるときに、俺が仕事で使っていた自分の家から持ってきたパソコンを10万で買い取ってもらえないかと交渉したら(本当は4万くらいの価値)、何も疑わずに買ってくれた。「最新のすごいパソコンです」といったら「そうか! じゃあ売ってくれ!」といって一言返事だった。そういうとこは素晴らしい。