出会い系「90人と出会って20人ほどやった体験談」

出会い系で、27歳 180cm 130kgの女と会った話

投稿日:2018-07-18 更新日:

「家まで車で迎えにいきます!」というメッセージが届いた。

(女の方から、家に、迎えにくる……?)

正直この辺りから疑惑は濃厚になっていた。だが、もう遅かった。8月の昼間、午後1時。待ち合わせ場所に行くと、すごいデカイのがいた。

俺は178cmだが、明らかにそれ以上だった。ヒールを履いていたのでトータルは185cmぐらいだったと思う(なんでヒールを履くのかもよくわからんけど)。

縦にも横にもでかかった。バンギャルだった。プロレスラーみたいにドンとしていた。背中に大きなリュックを背負っていて、リュックの中身がパンパンだった。身体もパンパンでリュックもパンパンだから、余計に膨張して見えた。ヒールといい、どうしてわざわざこんな真似をするのか。新しい自殺だろうか?

金髪で、ただでさえ輝いているのに、白や黄緑などの膨張色の服を着ていた。ピアスやネックレスもジャラジャラしていて、明らかに地元の駅では浮いていた。こんなのが誰かと待ち合わせ以外に用があるわけがなく、俺の待ち人であることに違いなかった。

軍事探偵のようにキョロキョロしていて、すぐに俺は発見された。まだ30メートルぐらい離れたところにいる俺に対して声をかけてきた。初対面の9割の女は、こういうときは下を向いていて、声をかけられるのを待っているのが常だが。

「こんにちはーーー!!」

「こ、こんにちは……。…………。わざわざこんなところまでお迎えに来てくれて……、ありがとう……」

「いえいえ! じゃあそこに車停めてあるんで、いきましょ♪」

車に連れ込まれたら、もう逃げ場がない。俺は体重が59kgしかないので、車に乗ったらもう勝ち目がない。逃げるなら今しかない。さて、めっちゃ走るかどうするか? ここで逃げたって俺の罪にはならないだろう。

………………。

結局、逃げなかった。この子に対する優しさではない。流れに逆らえなかった。今日は、流れに逆らえる意思の力が足りない日だった。

「どうぞ」

助手席に乗った。めちゃくちゃデカイ車だった。セレナだった。体型といいリュックといい、デカイのが好きなのか? 自分の車? 家族用の車? 親の車を借りて来たのか? 別にどうでもよかったので聞かなかった。

そして次の瞬間、信じられないことが起こった。

俺が助手席に乗り込んだのを確認すると、女は運転席に座ろうとした。女が運転席に座った途端、車が「「ドンッ!」」と揺れて、助手席にもその振動が伝わって、俺のケツがヒュイッと浮いたのだ。

「…………」

「…………」

お互いに無言が生まれた。

明らかに車は揺れたし、ケツは浮いた。20cmくらいは浮いたと思う。

「…………」

問題は、それを茶化すか、取り合わないかだ。

一応は女の子だから、取り合わない方が正解だと思うかもしれない。だが、浮いた高さが問題なのだ。無視できないくらい浮いてしまったのだ。

これがもし、俺が浮きすぎて天井に頭をぶつけたら、取り合わない方が不自然だろう。逆に失礼になるだろう。「そこまでデブに対して気を使うの? 天井に頭をぶつけるほどケツが浮いてもツッコまないなら、一体どこでツッコむの?」という話になる。 この問題に関して絶対に触れないといういき過ぎた配慮が、かえって彼女を苦しめることになるのだ。

天井に頭をぶつけはしなかったが、20cm浮いてしまったので、かなり悩んだ。結局俺は、見知らぬ車に乗ってそわそわしている体で、シートベルトを探しているように見せかけるなど、ちょこちょこ動いてごまかそうとした。とにかくちょこちょこ動いた。たった今、ケツが20cm浮いてしまったことも、そのちょこちょこした動きの中の一部分ということに擬態したのだ。ちなみに、これは数秒間のできごとの話だ。俺がどれだけ一瞬の間に格闘したかわかってもらえただろうか?

(ごまかせたか……?)と困惑した内心をよそに、俺は運転席に座っている彼女をチラリと見た。彼女は普通に右折していた。

助手席から、運転席の彼女の体型をよく眺めていると、改めてデブだなと思った。恐ろしい病的な何かを感じさせるデブだった。これぞ、THE・出会い系というヤツだ。

それにしても、こんな図体でよくノコノコやって来れたもんだ。顔も違かった。写真よりずっとブスだった。写真詐欺の罪も重ねている。だんだんイライラしてきた。とにかく、この図体は、シングルマザーがそれに触れなかったのと同じレベルの話だ。

(ふざけんじゃねーぞ? こっちだって暇じゃねーんだよッ! 貴重な休みを一日使ってんだよ! メッセージだって一週間やってきて、いつ誘うか、どこに行くか、頭使ってんだよ! 出会い系で会うってのは時間と体力使うんだよバカがッ! もしお前と会わなかったら、録画しておいた『乃木坂工事中』を見れたんだ! ゆっくり休んで、明日、素晴らしい気持ちで仕事に取り掛かることができたんだ。もうだめだッ! 明日の仕事はダメだ! 明日の、会社の命運をかけた取引はお前のせいで失敗する! ジャイ子……!)

本当に帰ってやろうかと思ったが、車は50キロで走っていた。

いつも思うことだけど、どうしてこんな、会えばバレる嘘をつくんだろうか? 彼女は元気に「こんにちはーー!」なんて言ってきたけど、内心ビクビクしてやってきたはずだ。今だって、どう思われているか不安そうな顔をしている。俺が別れを言い出す前に車に押し込んだけど、車に押し込んでしまえば俺と付き合えるわけではない。

彼女の瞳にも、俺が彼女の半分程度の体躯であることは映っている。抱きあったらどうなってしまうのか? セックスも体位は限られるだろう。果たして無事にセックスできるかどうかもわからない。ラブホが血の海になるかもしれない。肉を押しのけて性器を探している間に休憩時間が終わってしまうかもしれない。もし覗いてる中学生がいたら、(男の人が一人でパンをこねている?)と思うかもしれない。

これは俺の見解だが、太ってる女は細身の男を好む傾向がある。デブが2つ並んでいると画面いっぱいに広がって、あまりにもダイナミックで、見苦しく暑苦しく、余計に残念に見えてしまうからだろうか。

俺は178cm59kgのガリ男だが、よくデブに好かれる。とても羨ましがられる。デブはこれまで何十年と自分の肉の山と付き合って来て、一度しかない人生をデブとして生きるように運命づけられてしまった。生まれてきてデブ以外の時間はなかった。その苦悩は現在進行形で続いていて、細い身体がただ眩しくて、近くに細い身体があるだけで、救われる気分になるんじゃないだろうか? 同性だと憎しみと心の脂肪が邪魔して素直に認められないけど、異性の細い身体は羨望だけがあるんじゃないか?

この子が一度しかない人生を、180cm、130kgで生きなければならないと思うと悲しくなってしまった。色々あるけど、人生は視覚的な問題が最上なのだ。デブはみんな、「今回の人生はデブでした」みたいな顔をしているけど、人生に2回目はない。来世も生まれ変わりもない。デブとして生まれてデブとして死ぬ。その一回があるだけだ。

無がある。無がずっと続いて、突然、デブが生まれて死ぬ。そしてまた無になって、無が続いていく。一瞬、宇宙にデブの時間があっただけだ。

「お仕事は理学療法士さんをされているんですよね?」

「うん」

「私、すごい健康とか運動とか、そういうのに興味があって、そういうの指導してくれる人が彼氏だったらいいなぁ! って思うんです!」

(し……指導?)

俺は、この子が猿轡を咥えて背中にロウソクを垂らされて、焦がされている図を想像した。

「それは、その、運動とか興味あるの?」

「私、もともと先天性の病気があって、体重が増え続けちゃうんですよ。本当に何も食べてないのに体重が増えてしまって、毎日2時間は散歩してるんですけど、全然効果がなくて」

「2時間さんぽ!? それはすごいね!(何も食べてないのに、体重が増え続ける……?)」

「えへへ、一応、陽射しが弱い夕方とかにやってるんですよ」

「歩くだけ? 走らないの?」

ああいけない。余計な一言だったろうか。

「そうですね、でも結構な速度で歩いてるんですよ?」

「へぇ……」

俺がこの子だったら、まず会社を休むか辞めるかして、朝から晩まで走り続ける。そして食事を週2回にする。

しかし先天性の病気というのがよくわからなかった。体重が増え続けてしまう病気なんて聞いたことがない。たしかに、血中のホルモンの関係で、太りやすい痩せやすいというのはあるだろう。俺も、太ろうと思ってドカ食いして寝まくった時期があるが、全く太らなかった。人間の体には恒常性があって、元々の適した体型に留めておこうとする作用が働いているようだ。

「ご飯は全然食べないの?」

「食べないですねぇー。食べても一日一食で、お菓子とか、スイーツをちょっと食べるだけですね」

27歳がスイーツと言うのにイラッとした。デザートと言われてもせせら笑ってしまうが。なんて言えばいいんだろう? お菓子が無難だろうか? ちなみに10代の子はスイーツと言わない。スイーツというのは20代後半から30代である。

「え? 本当にそれだけ?」

「そうですね、やっぱり糖分が欲しくなるときがあって、本当は他のもの食べた方がいいってわかってるんですけど、ケーキとかドーナツ食べるだけですね。少ないですけど、本当にちょっとだけですけど」

甲子園球児がグローブを突き破って手が出るほど欲しがるこの巨体が、わずかなケーキやドーナッツだけで構成されているとは、にわかに信じられない話だった。

そんなこんなで、俺達はカフェに着いた。

目の前の小川を一望できる変わったカフェだった。彼女のお気に入りらしい。

24歳くらいの女店員が案内してくれた。俺とこの子が並んでいる姿をどう思っただろうか? デカイ女がデカイ割り箸もってやってきたと思ったか?

店員の顔に感想を探してみたけど見つからなかった。なかなかのプロだ。ご褒美に目の前で感想を言ってもいい権利をプレゼントしたい。

店内では恋愛の話になった。

「別れてからですか……? ええと……、2ヶ月ぐらいですね。8年間付き合ってた人がいたんですけど」

「8年!?」

8年って、すげーな……! 結婚しろよ! お前と8年も一緒にいてくれた人とは何が何でも結婚しろよ! 180cmで130kgだぞ? 8年も一緒にいてくれる人なんてそいつしかいねーだろ!

「彼、バンドマンでドラムやってたんですけど、フリーターやりながらドラムやってて、本当にお金なかったんですよ」

「お金か。それはたしかに困るかもね」

「でも、お金ないのはそんなに重要じゃないと思ってたんです。その、問題は、ドラムがひどくて……」

「ドラムがひどい?」

「彼、ずっと一日中ドラムを家で叩いてて、家に遊びに行っても、ずっとドラム叩いてるんですけど、それがひどいんですよ。すっごい下手で、素人目から見ても下手で、なんでこんな下手なのにずっと叩いてるんだろうって思って……。それを10年以上やってるんですよ? それも少しやるとかじゃなくて、びっくりするほどずーーっと叩いてて、本当に24時間ずっと叩いてるんですよ! なのに下手なんですよ!! あまりにのめり込んで、仕事やデートをドタキャンしてまで練習するんです!! なのに下手なんです!!」

「仕事をドタキャンって……(笑) 下手うまとかじゃなくて?」

「いや、私も音楽が好きでよくライブに行くんですけど、ていうか、ライブでその彼と知り合ったんですけど、私、音楽詳しいから下手か上手いかすぐわかるんですけど、でも、たぶん、しまるこさんが聴いてもわかると思いますよ! 本当にやばいから!」

「でも、一応ライブやステージで演奏できる腕前なんでしょ?」

「さぁ、メンバーの情けじゃないですか? ライブでも明らかにドラムだけ変な音でてるし」

「ドラムだけ変な音……」

「このままこの人ずっとこの調子なのかなと思ったら、不安になっちゃって……。ちょっとは上手くなっていったら一緒に夢を見ることもできたかもしれないけど、ずっと横ばいで、なのに全く諦めないから、もういいかげん無理って思っちゃって……。結婚しても、家事とか手伝わないで、ずっとドラム演奏しているんだろうなぁって思ったら、結婚なんて考えられなくて、私も27だし、いいかげん本気にならないとって思って」

「8年っていうと、19の頃からずっと付き合ってきたんだ……?」

「そうですね」

まぁ、言いたいことはわかるが。……しかし! 俺はその彼と結婚すべきだと思った。やっぱり、ここに戻ってくるのだが、180cm130kgの女の子と結婚してくれる人は他にいないのだ。8年一緒に生きたことが何よりの証拠だ。これを運命という。「頭」で将来の不安について考えて、無理に切り離したに過ぎないのだ。人間関係を頭で整理してはダメである。

それにしても、一体彼はどんな音を鳴らすのだろう? 俺は今日の出会いには後悔しているが、ドラムの彼の話を聞けたことはよかった。一日中、死ぬほど練習してもうまくならないけど、それでも鳴らしている人がいる。そんな人間が近所にいることは、温かい気持ちになった。どうしてそこまで頑張れるんだろう?

家でYouTubeばかり見て過ごしている俺よりよっぽど偉い。結婚しても、大体の男は家に帰ってYouTube見たり漫画見たり横になっているだけだ。YouTubeがドラムに置き換わるだけだ。まだドラムの方が格好つくじゃないか。さすがに仕事を放っぽりだしてまでとなると困ってしまうが、偏執狂になって何かを頑張れるのはすごいことだ。成功しなかったとしても、それだけで素晴らしい。YouTubeを見続けていても何も生まれないが、ドラムだったら可能性はゼロではない(話を聞いた限りでは、ゼロどころかマイナスだけど)。

注文したものが届いた。

俺はパスタ。女はパスタとアップルパイを頼んだ。

繰り返す。俺はパスタ。女はパスタとアップルパイを頼んだ。

俺は別に何も言っていないが、「本当はパスタだけでよかったんですけど、この店のアップルパイは格別だから、来た以上は絶対に食べなきゃ損なんです……」と、彼女は仕方なさそうに言った。

アップルパイは凄まじく大きかった。980円した。この子は、この店のアップルパイを食べたことがあって、この大きさを知った上で注文した。

そんなに格別に美味しいなら食べたらいい。いくら大きくても食べたらいい。食べなきゃ損なら食べたらいい。うん、なら、アップルパイだけを頼めばいい。パスタも頼んだ。これがおかしい。

十分に巨漢の食事だ。理屈が通らない。あれだけ太るとか太らないの話をして、あまつさえ病気とまで称して、俺はパスタ、この子はパスタと大きなアップルパイなのだ。

別に俺は何も言ってないのに、「外で食事するときは相手に失礼がないようにちゃんと食べなきゃ悪いと思って……」と、彼女は申し訳なさそうに言った。

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家に着くと、「お迎えに来てくれてありがとう。楽しかったです」とメッセージを送った。こういうときは、迎えに来てもらった方からメッセージを送るのが当然だ。だから俺から送った。大抵の女は、俺が迎えに行ったにも関わらず、お礼をよこさない。だからいつも仕方なく俺から送っている。

脈があると思われたら困るので、本当は送りたくなかったが、ポリシー(←笑)を破るわけにはいかない。

「今日はありがとうございます。それより、私、しまるこさんにどう映ったかな?)^o^(」

と返ってきた。

「「「ひいえええええーーーーーーーーーーー!!」」」と俺は叫んで、スマホを窓から投げ捨てると、アップルパイのお化けがスマホから飛び出してきて、俺は南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏といつまでも念仏を唱えていた。

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