出会い系で、27歳 180cm 130kgの女と会った話

出会い系でびっくするほどのでかいデブにあった。180cmで130kgはあったと思う。嘘じゃない。俺もびっくりした。

 

アプリの写真だと別に普通だった。やや可愛いかなと思った。メッセージのやりとりだと、やたらとぐいぐい来るなと思って、よほど男に縁がないかと怪しんだが、やっぱりその通りだった。こういう直感は素直に従わなければならない。

 

アプリの体型を記入する欄に「やせ、普通、ぽっちゃり」のいずれかを記入するところがあるが、無記入になっていた。無記入になっている場合は、デブだと確定していいだろう。


写真では金髪でアップの顔が映っていてるだけで全身は映ってなかった。身長の欄も無記入だった。180cmあるから書けなかったんだろう。だが、これも書かなくちゃならない。シングルマザーがそれに触れないのと同じレベルの話なんだから。

 

「家まで車で迎えにいきますよ!」というメッセージが届いたときから、嫌な予感はしていた。女でこんなにぐいぐいくる奴は見たことがない。家は怖かったので、最寄りの駅まで来てもらうことになった。

 

8月の昼間、午後1時。駅に行くと、すごいデカイ人間がいてびっくりした。縦にも横にもでかかった。そして派手だった。頭が凄まじい金髪で、根本から綺麗に染め上がっていた。太陽が暑くて地上に落ちてきたのかと思った。

 

俺が178cmだが、それと同じかそれ以上だった。ヒールを履いていたので、トータルで180cmは絶対に越えていた。プロレスラーみたいにドンとしていて、背中に大きなリュックを背負っていた。リュックの中身もパンパンで、それが余計に膨張して見えた。どうして、わざわざ更に肥大させるようなことをするのかわからなかった。

 

さらにだ。金髪で、ただでさえ輝いているのに、白や黄緑や、膨張色の服を着ていた。これはいくらなんでも装飾過多で、明らかに俺の地元の田舎の駅には浮いていた。こんなのが誰かと待ち合わせ以外に田舎駅に用があるわけがなく、俺の待ち人であることに間違いない。

 

馬鹿みたいにキョロキョロしていて、まだ遠くにいる俺に対して声をかけてきた。普通、こういうときは女は下を向いていて、声をかけられるのを待っていることが多いのに。


「こんにちはーーー!!」

「こ、こんにちは……」

「わざわざこんなところまでお迎えに来てもらってありがとう」

「いえいえ! じゃあそこに車停めてあるんで、いきましょ♪」

 

車に連れ込まれてしまったらもう逃げ場がない。俺は体重が59kgしかないので、車に乗ったらもう逃げられない。逃げるなら今しかない。さて、めっちゃ走るか、どうするか。ここで逃げたって俺の罪にはならない。それは確かだ。

 

………………。

 

結局、俺は逃げられなかった。この子に対しての優しさではなく、流れに逆らえなかっただけだ。流れに逆らえるだけの意思の力が、今日は足りなかった。

 

「どうぞ」

と言われて、助手席に座った。めちゃくちゃデカイ車だった。リュックサックといい、デカイものが好きなんだろうか。8人くらい乗れそうな、バンだったかセレナだかしらないが、デカい車だった。

 

そして、助手席に俺が乗り込んだのを確認すると、女は運転席に座った、運転席に女が座った途端、車がドン!ッと揺れて、助手席にもその振動が伝わって、俺のケツがヒュイッと浮いた。

 

「…………」

「…………」

 

お互いに無言が生まれた。

 

明らかに車は揺れたし、俺のケツは浮いた。

 

問題は、それを茶化すか、取り合わないかのどちらかだ。

 

一応は女の子だから、取り合わない方が正解だと思うかもしれない。

 

だが、浮いた高さが問題なのだ。

 

結構浮いてしまったのだ。

 

これがもし、俺が浮きすぎて天井に頭をぶつけたら、取り合わないのは不自然だろう。逆に失礼だろう。そこまでデブに対して気を使うのか。天井に頭をぶつけるほどケツが浮いてもツッコまないなら、どこでツッコむの?  この問題に関しては絶対に触れないという行き過ぎた覚悟が、逆に彼女を苦しめるのだ。

 

結局俺は、見知らぬ車に乗ってそわそわしている感じで、シートベルトを探しているように見せかけるなど、ちょこちょこ動いてごまかそうとした。ちょこちょこ慌ただしく動くことで、たった今、ケツが30cmぐらい浮いてしまったことも、その一連の動きの中の一つということにした。

 

 

助手席から、運転席の彼女の体型をよく眺めていると、改めてデブだなと思った。

 

これは俺の見解だが、デブ女は細身の男を好む傾向がある気がする。デブ同士が二つ並んでいると画面いっぱいに広がって、ダイナミックで、とても目が二つだけじゃ間に合わなくなる。見苦しく、暑苦しく、余計に残念に見えてしまう。油断してる時に見てしまったら「うほッ!」と言っちゃうかもしれない。

 


俺は178cm、59kgのガリ男だが、わりとデブに好かれる傾向がある。

 

デブは細い人間が羨ましいのか。毎日、何十年間と自分の肉の山と付き合って来て、一度しかない人生をデブとして生きるように運命づけられてしまった。

 

生まれてきてからデブ以外の時間はなかった。その苦悩は現在も進行形で続いていて、細い身体がただただ眩しくて、近くに細い身体があるだけで、救われる気分がするんじゃないだろうか。同性だとむかつくけど、異性の細い身体は素直に羨望だけが残るのではないか。

 

この子が一度しかない人生を、180cm、130kgで生きなければならないと思うと悲しくなってしまった。色々あるけど、人生は視覚的な問題が結局のところ最上だ。

 

デブはみんな「今回の人生はデブでした」みたいな顔をしているけど、人生に二回目はない。来世も生まれ変わりもない。デブとして生まれてデブとして死んだという星の瞬きがあっただけだ。

 

無がある。無がずっと続いて、突然、デブが生まれて死ぬ。そしてまた無になって、無が続いていく。

 

だから、ただ「デブの時間」があっただけだ。

 


「お仕事は理学療法士さんをされているんですよね?」

「うん」

「私、すごい健康とか運動とかそういうのに興味があって、そういうの指導してくれる人が彼氏だったらいいなぁ! て思うんです!」

(し……指導?)

俺は、この女が猿轡を咥えて、黒いレオタードを着て、背中にロウソクを垂らされて、肉が焦げてる図を想像した。

「それは、その、運動とか興味あるの?」

「私、もともと先天性の病気があって、体重が増え続けちゃうんですよ。本当に何も食べてないのに体重が増えてしまって、毎日2時間は散歩してるんですけど、全然効果がなくて」

(何も食べてないのに、体重が増え続ける……?)

「2時間さんぽ!? それはすごいね!」

「えへへ、一応、陽射しが弱い夕方とかにやってるんですよ」

「歩くだけ? 走らないの?」

ああいけない。余計な一言だったろうか。

「そうですね、でも結構な速度で歩いてるんですよ」

「へぇ……」

俺がこの子だったら、まず会社を休むか辞めるかして、朝から晩まで走り続ける。そして食事を週2回に収める。

 


理学療法的なアドバイスをしてあげたかったが、資格だけ持っているだけで、一度も勉強したことがないから何も教えられなかった。しかし、その先天性の病気? というのはよくわからなかった。体重が増え続けてしまう病気なんて聞いたことはない。

 

たしかに、血中のホルモンの関係で、太りやすい痩せやすいというのはあるだろう。俺も、太ろうと思ってドカ食いして寝まくってみた時期があるが、全く太らなかった。

 

人間の体には恒常性があって、元々の適した体型に留めておこうとする作用が働いているようだ。

 

太り方はしらないが、痩せ方に対してはある考えを持っている。外に出て、外界の空気に触れて心頭滅却する。そして、自分の身体の全てに英気を送る。手足、爪先まですーっと神経や気を通らすようにする、その状態のまま立ったままでもいいし、歩き回ってもいい。それだけで痩せる気がする(笑)。

 

腰を回したり伸びをしてみたり、パァッと自分の身体を発光させるようなイメージを持つ。俺は痩せるためにやっているわけではなく、単にストレッチでよくやっているだけだが、なんだか肉が洗練されて引き締まるような気がする。ヨガもこういうことなんだと勝手に思っている。この精神的態度が欠けているからデブはデブなんだと思っている。

 

 

「ご飯は全然食べないの?」

「食べないですねぇー。食べても1日1食で、お菓子とか、スイーツをちょっと食べるだけですね」

27歳がスイーツと言うのはどうだろうか。デザートと言われてもせせら笑ってしまうが。

なんて言えばいいんだろう? お菓子が無難か?

「え? 本当にそれだけ?」

「そうですね、やっぱり糖分が欲しくなっちゃうっていうか。本当は他のもの食べた方がいいってわかってるんですけど、ケーキとかドーナツ食べるだけですね。少ないですけど、本当にちょっとだけですけど」

甲子園球児がグローブを貫いて手が出るほど欲しがるこの巨体が、わずかなケーキやドーナッツだけで構成されているとは、信じがたい話だった。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、俺達はカフェに着いた。

 

目の前で流れる小川を一望できる変わったカフェだった。彼女のお気に入りらしい。

 

24歳くらいの女店員が、案内してくれた。俺とこの子が並んでいる姿をどう思っただろうか。

 

店員の顔に感想を探してみたけど見つからなかった。だが、内心では「うわ、すごいでかいの連れてる」と思わないわけがない。

 

顔や言葉や仕草には全く表れてはいないけど、仕事の疲れが一瞬飛んでしまったような新鮮さが、店員の心の中に走ったのを、なんとなくだが感知することはできた。

 

 

 

店内では恋愛の話になった。

「別れてから2ヶ月ぐらい経ってるんですよ。8年間付き合ってた人と別れちゃって」

「8年!?」

8年って、すげーな、結婚しろよ。8年も一緒にいてくれた人とは何が何でも結婚しろよ。180cmで130kgだぞ? 8年も一緒にいてくれる人なんてそいつしかいねーだろ。

「彼、バンドマンでドラムやってたんですけど、フリーターやりながらドラムやってて本当にお金なかったんですよ」

「お金か、それはたしかに困るかもね」

「でも、お金ないのはそんなに重要じゃないと思ってたんですよ。問題は、ドラムがひどくて……」

「ドラムがひどい?」

「ずっと一日中ドラムを家で叩いてて、家に遊びに行っても、ずっとドラム叩いてるんですけど、それがひどいんですよ。すっごい下手で、素人目から見ても下手で、なんでこんな下手なのにずっと叩いてるんだろうって思って。それを10年以上やってるんですよ。それも少しやるとかじゃなくて、びっくりするほどずーーーっと叩いてて、本当に24時間ずっと叩いてるんですよ!! なのに下手なんですよ!! あまりにのめり込んで、仕事やデートをドタキャンしてまで練習するんです!! なのに下手なんです!!」

「下手うまとかじゃなくて?」

「いや、私も音楽が好きでよくライブとか行くんですけど、実はライブでその彼と知り合ったんですけど、私音楽詳しいから下手か上手いかすぐわかるんですよ、たぶん、りょうさんが聞いてもわかると思いますよ。本当にやばいんですから」

「でも、一応ライブやステージで演奏はできる腕前というわけだ?」

「さぁ、メンバーの情けじゃないですか? ライブでも明らかにドラムだけ変な音でてますもん」

「ドラムだけ変な音……」

「このままこの人ずっとこの調子なのかなと思ったら、不安になっちゃって。ちょっとは上手くなっていったら一緒に夢を見ることもできたかもしれないけど、ずっと横ばいで、なのに全く諦めないから、もういいかげん無理と思って」

「結婚しても、家事とか手伝わないで、ずっとドラム演奏しているんだろうなぁと思ったら、結婚なんて考えられなくて、私も27だし、いいかげん本気にならないと、と思って」

「8年っていうと、19の頃からずっと付き合ってきたんだ……?」

「そうです」

 


まぁ、言いたいことはわかるが。

 


しかし! 俺はその彼と結婚すべきだと思った。やっぱり、ここに戻ってくるのだが、180cmで130kgの女の子と結婚してくれる人は他にいないのだ。

 

8年一緒に生きてきたということが何よりの証拠だ。相性が良くないと絶対に無理だ。運命といっていい。「頭」で将来の不安について考えて、無理に切り離しただけなのだ。

 

それにしても、一体彼はどんなドラムの音を鳴らすのだろう? 俺は今日の出会いに後悔しているのは間違いないが、このドラムの彼の話を聞けたことはよかった。

 

一日中、死ぬほど練習してもうまくならないけど、それでも鳴らしている。そんな人間がこの世にいるというのか。どうしてそこまで頑張れるんだろう。

 

家でYouTubeばかり観て過ごしている俺よりよっぽど偉い。結婚しても、大体の男は家に帰ってYouTube観たり漫画見たりして横になっているだけだ。YouTubeがドラムに置き換わるだけだ。まだドラムの方が格好がつくじゃないか。

 

さすがに仕事をほっぽりだしてまでとなると困ってしまうが、偏執狂というレベルまで何かを頑張れるってすごいことだ。成功しなかったとしても、それだけで素晴らしく感じてしまう。YouTubeを見続けていても何も生まれることはないが、ドラムだったら可能性はゼロではない(話を聞いた限りでは、ゼロどころかマイナスになっているけど)。

 

 

 

注文したものが届いた。

 

 

俺はパスタを1つ。女はパスタとアップルパイを1つづつ頼んだ。

 

俺は別に何も言っていないが、「この店のアップルパイは格別で、来た以上は絶対に食べなければ損なんです」と仕方なさそうに言った。アップルパイは凄まじく大きかった。680円した。

 

この子は、この店のアップルパイを食べたことがあり、この大きさを知った上で注文した。

 

もっと小さな食品はいっぱいある中で、この大きなアップルパイを注文した。そんなに格別に美味しいなら食べたらいい。いくら大きくても食べたらいい。食べなきゃ損なら食べたらいい。アップルパイだけを頼んだのならいい。だが、パスタも頼んだ。これはおかしい。

 

十分に巨漢の食事だ。理屈が通らない。あれだけ、太るとか太らないとかの話をして、俺はパスタ。この子はパスタと大きなアップルパイなのだ。

 

別に俺は何も言ってないのに、「外で食事するときは相手に失礼がないようにちゃんと食べなきゃ悪いと思って」と言った。

 

 

 

 

家に着くと、「お迎えに来ていただいてありがとう、とても楽しかったです」とメッセージを送った。こういうときは、迎えに来てもらった方からメッセージを送るのが当たり前だ。だから俺から送った。

 

大抵の女は、俺が迎えに行ってやったにも関わらず、デート終わりのメッセージをよこさないので、仕方なく俺から送ることになり、いつも負けた気分にさせられる。

 

脈があると思われたら困るので、本当は送りたくなかったが、自分のポリシー(←笑)を破るわけにはいかない。

 

「今日はありがとうございます。それより、私、りょうさんにどう映ったかな?)^o^(」

と返ってきた。

 

「「「ひいえええええーーーーーーーーーーー!!」」」と俺は叫んでスマホを窓から投げ捨てると、アップルパイのお化けがスマホから飛び出してきて、俺は南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏といつまでも念仏を唱えていた。